最低賃金の議論は物価の動向と大きな関係性があります。
物が安ければ賃金が低くても十分な暮らしをすることができますが、物価が上がってくると今までの賃金では相対的に支出が増え、豊かな暮らしができなくなるのです。
そして今その問題が、海外で広がっているインフレ圧力や円安の影響で顕著になってきているのです。
日本はエネルギーや食糧の多くを海外に依存しているため、輸入するためにたくさんのお金が必要になり、さらなる円安を招いています。
海外では作物の不作やエネルギーの需要増、ウクライナとロシアの問題で様々なものの価格が大きく上昇しています。
円高であれば影響は少なく済みましたが、円安になればなるほど購入価格が高くなるため、今大きなインフレの波が家計を襲いだしているのです。
国内の経済が現状抱える問題点
日本はこの数十年、賃金の伸び方が海外と比較しても極端に少なく、ほぼ横ばいで推移してきました。
国内の経済だけで見てみれば物価も上がらず、賃金も上がらなければ生活の質は良くも悪くもなりません。
円高の状態であれば海外のものも安く購入することができたので、消費者にとっては大きな打撃にはなりませんでした。
ただし物価が上がらないとお金が動かないので、経済成長率も低くなります。
国や中央銀行がインフレ目標率を掲げているのは、経済成長率を高くするためでもあり、適切に管理されているインフレは企業の売り上げのアップと労働者への還元で、好景気を生む下地になります。
企業の業績が伸びれば消費税や法人税などで国の税収も多くなり、より手厚い保障も可能になるでしょう。
しかしインフレはうまくコントロールできないと、取り返しのつかない事態を招く危険があります。
例えば企業の業績が伸びても賃金が上がらないと物が売れなくなるので、次第に景気が後退、不景気なのにインフレが進む「スタグフレーション」が起きる可能性が出てくるのです。
実際にスタグフレーションはオイルショックの時に発生しており、生活者にとって厳しい経済状態が続きました。
政府はこうした悪循環に陥らないような政策をしなくてはなりません。
海外の成長と国内を比較することも重要
海外の成長と国内を比較することも重要です。
例えば韓国はこの10年間で最低賃金は2倍に引き上げられ、国のGDPでは圧倒的に日本のほうが高いものの、国民一人当たりのGDPで見ると今ではほとんど変わらないくらいまで差が縮んでいます。
このまま日本の最低賃金が上がらないと、一人当たりのGDPが韓国に抜かれる日はそう遠くありません。
国民一人一人を豊かにするためには、国民一人当たりのGDPにも目を向ける必要があります。
最低賃金の保証は暮らしの底上げになりますが、一方企業にとっては人件費の上昇につながるため、企業側との折り合いをどうつけるかが重要になります。
景気が良くなれば必ず企業にとってもプラスになりますが、効果が出てくるまでには時間がかかります。
それまで減税をするなど、政府の政策が重要なのです。
現状の税制を変える必要について考察する
賃金アップとともに現状の税制を変える必要も出てくるでしょう。
夫婦で共働きをしている人も多く、配偶者控除を受けられる金額まで働いている人も少なくありません。
そういう人はシフトに入る時間を管理し、上手に収入を抑える努力をしてしまっているのです。
もし単純に最低賃金だけが上がると、働ける時間が短くなることで企業側の人手不足を生み、配偶者控除を気にして稼げる金額は変わらないため、生活の質も上がりません。
この問題を解決するためには賃金をアップさせるだけでなく、税制面での改革も必要不可欠になります。
まとめ
企業にとって賃金を上げることは負担が多くなることなので、難しい決断です。
しかし消費者の生活の質が向上すれば、必ずそのお金は循環して企業の利益に貢献します。
こうした好循環を生むためには賃金を段階的に引き上げ、インフレとうまく付き合っていくことが重要です。